喧嘩から逃げ出しビジネスホテルへ ひっきりなしに届く謝罪

白目トモ子(筆者)
メディアの片隅で生き延びてきた物書き。小学生男児2人を育てる。目下の悩みは不登校で発達特性ありの長男の中学受験。

夫との喧嘩に耐え切れず家を逃げ出してビジネスホテルへ向かいます。「ごめん。悪かった」。夫からは謝罪のLINEがひっきりなしに届きます。

「謝罪だけさせて」「俺が家を出れば良かった」「イライラして出てけって言ってごめん」

そうでした。怒りに任せて出てきてしまったけど。そもそもは夫が「出てけよ」と口走ったのでした。「出るならあんたが出ていきなさいよ」。私が言い返したのに対して、「そうやってイライラされるのが迷惑なんだよ。もういいからどこか行って」。

もう、限界でした。何もかも。夫の感情の振れ幅に付き合うのも、振り回されるのも。会話が炎上しながらあらぬ方向に突き進んでいくのも。

その頃の夫の論法はいつも同じでした。文句言うならやるな、頼んでない。家族皆が迷惑してる。子どもに本当に関心を持ってるのか。好きなことも知らないくせに。あなたのやってることは親のエゴ。あなたのせいで息苦しい。

「迷惑」「無関心」「エゴ」

そんな風に言われて、心穏やかでいられる母親がいるでしょうか。コロナ禍始まって以来の3年間、誰よりも長男と長い時間を過ごしてきたのは私です。一時の不登校、癇癪、精神不調。長男の不調が長引くにつれ、在宅「でも」働けるという形で場所の縛りからの自由をもたらしてくれたはずの勤務形態は、在宅「でしか」働けないという監獄のような場所になっていました。

それに対して夫が言ったのは「在宅が嫌なら会社行けよ」。在宅勤務がなかったら、家庭はもっともっと悲惨なことになっていたはずです。しかし夫は、在宅勤務と子どもの世話のはざまでイライラする私を「迷惑」だとあげつらい、何とか塾に行かせようとすると「エゴ」だと、ひとり高みから断罪するのです。

夫に対して批判めいたことを言おうものなら、「俺は何もしてないのか」「仕事辞めろって言うのかよ」。現実的な着地点を探すための会話ができず、常に極端な解釈からの炎上。長男の機嫌の乱高下に付き合うだけで疲弊するのに、夫まで褒めて感謝して気分よくいてもらうために努力しなくてはいけないのか。

……何で一緒に暮らしてるんだろ。

適応障害と診断されて以降、ずっと感じていたことでした。何のために一緒にいるのだろう。本当に困難な時間を過ごしたこの夏、私を支えようともしたけど、同時に突き落とそうともした夫。

夫からはひっきりなしにメッセージが届いていました。私が本当に外泊をするつもりで家を出たと分かって、ようやく我に返ったようでした。

「ごめん。勝手で悪いんだけど、帰ってきて」「自分がしたことでまた傷つけたと後悔している。ごめん」

傷つけた……? いや、傷ついてはいないんだな。私は傷ついたんじゃなくて、この状況にめちゃくちゃに怒っていて、その怒りを、夫との関係を断ち切ることで昇華させようとしてるんだな。

「傷つけた」は夫が好んで使うフレーズの一つでしたが、私は嫌いでした。まるで、傷をつける側が力を持っていて、傷つく側が無力であるように思えて。

違います。我が家においては、私こそが真に自立し、家事も育児も仕事もすべてのことをひとりで完結することができる人間です。私がずっと、夫を守ってきたのです。病気であっても、親として生きていけるように。夫は、夫が得意な範囲の家事をこなし、いくらかの苦労を分かち合う。しかしその生活の基盤を全て整えたのは妻である私。そんな夫にできることは私を傷つけることではありません。

「傷つけたとかじゃないから。君に傷つけられるほどやわじゃありません。ただ、現実を見ただけです」

見た現実。10年経った。10年待った。でも変わらなかった。治らなかった。

「私を幸せにしたいのならば、離婚に同意して、夫でいることをやめてください」

不在着信。無視。

「どんな謝罪の言葉も信じません。もう私の人生から縁を切ってください。謝罪によって私の気持ちをコントロールしようとしないでください。LINEはブロックしますので、以降は連絡は不要です」

これまでも見てきた現実。謝っても謝っても、また繰り返す。夫の懺悔は、結局、次の爆発への布石なのです。こんな馬鹿らしいことは、これ以上繰り返したくはありませんでした。それであれば、私にできることは、一つだけ。もう、この物語から下りることです。

トモ子

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