精神不調の長男に寄り添いながら過ごした夏休み。共働きの我々夫婦。私が在宅勤務で面倒をみたり、夫が連れ出したりして時間をつないでいましたが、ある日限界に達しました。これだけの負荷はたとえあと1週間でも、もう耐えきれない。さて、何をおろす?
「ドーナツ買いに行かない?」
夫との外出から帰宅して、ソファでゴロゴロする太郎。その日の予定はもう他にはありません。そうなると、その後の流れは大体見通せます。数分後には「今日なにすんの?」「おなかすいた」の質問・要求攻めが始まり、はいはいと対応しながらも放置を続けると「退屈すぎてもう人生楽しくない」からの、「ねえ僕ってなんでこんな風なの?」「お母さんは毎日楽しいの?」「何したら楽しくなるの?」の千本ノックへと。
ふーむ、どうしたものか。とりあえず好きなものを与えて1時間、あわよくば1時間半黙らせるか。
「ねえ、散歩しない?」
反応の薄い太郎。
「駅前まで行って、ドーナツ買おうよ」
いつもだったら「行く」と即答するのに、渋い顔。
「めんどくさい。買ってきてよ」
そう来たか。でもそれはそれで悪くない提案です。私も外でひと歩きして気持ちを整えれば、午後はなんとか乗り切れるかも。
大雨の中、駅前へ
しかし、出てみると外は大雨。
ポーチに立って、途方にくれました。「やっぱり行きたい」が始まると面倒くさいのがこの太郎という人間。最低限の化粧だけ済ませて、超特急で準備してたら、窓の外を見るのをすっかり忘れてた。
なんで私、この大雨の中の散歩なんて提案したかね…。でも、散歩でも何でもして気分を切り替えないと、とても太郎との在宅時間は耐えられない。まあいいや、長靴履いていこ。じっとりと暑い晩夏の大雨の中、駅へ向かいます。
しかし、体が重いのなんのって。ちょっと走るくらいの気力があれば良かったのでしょうが、そんな気力はないし、というか雨だし。もはや散歩というより、登校拒否状態の子どもが学校まで回り道しているような気分。とぼとぼ、とぼとぼ、と。
「怖い、怖いよ」と泣き声の電話
そんな時、ブーン、ブーンとiPhoneが。嫌な予感。見なくても分かります。(だから言ったでしょうよ、一緒に行こうってさあ)。電話に出なくても声まで分かる。絶対に泣き声。「どこにいるの? あと何分で帰る? 怖いよ、早く帰ってよ」
もうね、傘が、バーベルのように重くて。「今すぐ行く」と大雨の中向かってくる太郎を待つのが、しんどくて。熱が40度くらいあるとこれくらい体だるくなるかな? という感覚。
合流した太郎とドーナツ屋に行って、太郎にドーナツ食べさせ私はコーヒーまで飲んで、はたから見れば在宅勤務中の優雅なカフェタイムです。
(ああ、私もう何してるんだろうな。私って記者だよね? 会社出てれば、日陰部署とはいえ、パリッパリ仕事してるワーママだよね? なのに何よ今のこの状態。何なの私。なんだこれ)
ドーナツ食べて機嫌は良くなった太郎と、体感体温40度の体を引きずりながら家に帰り、そのままパタッと倒れこみました。玄関に。
全く同じだ、あの頃と
ひんやり冷たいフローリングに横たわり、不思議と穏やかな気持ちで、Twitterを眺めて30分。ああ、同じだ、と思いました。
入社直後の私。深夜0時から始まるミーティング。他社に負けない、というだけのスクープ競争。「ニュースなんて抜かれたっていいじゃん。うちがつかみ損ねたところで、世間は全然困らない」。入社後早々と疲れ果てて電池が切れた私。その時も、私が倒れこんだのは自宅の玄関でした。
(胃に穴が開くとか、分かりやすい形じゃなくてすみません)
動けない自分に対する罪悪感も全く同じ。でもその時は、会社のカウンセラーさんが教えてくれたのでした。
「健康に働けている状態だったら、玄関には倒れこまない。会社休まなきゃダメです」
そして「部長には私から話しておきます」と言われ、翌日から出社禁止。(ぬかった…カウンセラーさんにそこまでの権限があるとは知らなかった)。今思うとピントがずれた感想を持ったことまで、よく覚えています。
「しっかり休もう」ようやく決意
その時は1カ月の休みを経て復職。
今でこそ体調を崩した社員へのサポートは手厚くなり、一度休みに入ると産業医のお墨付きが得られない限りは復職できない体制です。でもその頃はリワークプログラムも何もなく、本人の「大丈夫です」の言葉だけで元のグループに復職。
「2回休むとペケが付くよ」との先輩の言葉に退路を断たれ、なんとかしがみついて勤務を続けたものの、「やっぱりニュースは無理だ」と判断、他社の内定を得て退職願い。
せっかく退社するチャンスだったのに、新入社員を退職させるという失態を犯したくない職場との交渉で力付き、また1ヶ月の休み。まさに七転八倒。その後は転職の意欲も尽き、少しゆるめてはまたアクセルを踏んで、を繰り返しているうち、完全に心を病んだのでした。
(あんな風になったら、ダメージでかいなあ)
その時は独身だったので、休もうと思えばいくらでも休めました。誰かをケアする必要もありません。
(でも、今はちょっと長引かせられないなあ)
今、休んだ方がいいんだろうな。太郎のためというより、自分のために。自分のために休むことが、家族のためもになるから。そうしてようやく、心を固めました。「中途半端に仕事を続けるのではなく、しっかり休もう」と。
気は重い。既に仕事の大半は放棄していたので大した仕事もしてないくせに、3度目のペケ。でも、無理だった。私には無理だったということなんだ。玄関からずるずると体を引きずりながら寝室のベッドに倒れこみ、teamsを立ち上げました。
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