次男インフルにオナラ暴走、次の敵は一体何? 本番まで36日

白目トモ子(筆者)
メディアの片隅で生き延びてきた物書き。小学生男児2人を育てる。目下の悩みは不登校で発達特性ありの長男の中学受験。
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12月27日

14:00

ジャック・バウアーもびっくりの隔離大作戦

どうにかインフルエンザでの家族全滅は免れたはずだ。次男の発熱から始まった年の瀬も迫る仕事納め。その後の作戦展開のスムーズさたるや、まるで家庭版トゥエンティーフォーだった。「ジャック・バウアーが中学受験生をインフルの猛威から隔離したらこうなる」というモデルケースとしてシリーズに追加してほしいくらいだ。

朝7時。ホカホカの次男の体を触った瞬間、「インフルだ」と確信した。熱を測ると39度5分。昨日ニュースで流れていた、指数関数的に増える患者数のグラフが脳裏をよぎる。熱の高さと喉が痛いという訴えを鑑みるに、病院を受診して検査をしなくても、陽性で間違いないだろう。

今日はもう終わったな、いや、冬季講習も正月特訓も埼玉入試まで全てが終わったな——万事休す、と遠い目になりかけた。だが、そこで終わるわけにはいかない。母は闘うのだ。

私が一気に戦闘モードを高めるなか、夫は「みんなの分のお昼ご飯だけは作っておくね」と、のんきに出社準備を進めていた。いや待て。その余裕、誰が許した。私から注がれる圧力たっぷりの目線を察した夫は、瞬時に出社を断念した。初動対応の鈍さは目をつぶるとしても、察しの良さだけは我が家の歴史に刻まれるレベルだった。

さて、最優先の課題は長男の安全確保だ。常に戯れ合う兄弟を物理的に引き剥がすには、ホテルにでも隔離するしかない。しかし、時は年末だ。ホテルの料金はまさに「年越し価格」。自宅近くのホテルの空室を血眼で探し、なんとか予約を確保するも、クレジットカードの決済画面を見た瞬間、私の心の渋沢栄一が忍び泣いた。

とはいえ、泣いてばかりではいられない。次に、予防投与のための抗インフルエンザ薬も手に入れておきたい。Xの中学受験仲間からオンライン診療という手段があるとの情報を入手し、検索して出てきたオンラインクリニックに迷うことなく診察予約を入れた。

1時間後、電話での診察が完了。10日分の投与×家族3人分×今すぐの服用分と直前期服用の2回分で、薬代は6万円。さらに、「追加1万円のバイク便なら今から届ける、でなければお届けまで3日」という、課金上等の医療ビジネスの本性を見せつけられ、それが妥当な値段なのか考える間もなく、狙い通りにさらなる課金を強いられることに。こうして、午後14時、ようやく予防目的でタミフルを服薬した我々だった。

作戦はここで終わりではない。次男のインフル疑惑を確定させるための受診の手配、隔離する長男が大晦日までの4泊5日を引きこもるための教材や過去問、「繊細」な長男が快適に過ごせるための抜かりない持ち物準備。さらに、仕事納めの本日は、隙間に仕事も進めながら…おっと、口が滑った。あくまで仕事がメインだったとここに記録しておくが、その逆だった疑惑は否定しない。

14:30

敵はインフル? それともオナラ?

——と、母が私用携帯と社用携帯を左右の手で握りしめながら必死の陣頭指揮にあたっていた頃、長男は塾に向かう道でオナラを懸命にこらえていた。我慢の限界を迎えた長男は夫に助けを求め、コールを受けた夫が戸惑った顔で私の方を見た。

「何?」

「太郎から電話。」

「だから何って? 体調悪くなった?」

「いや、オナラが出そうだって。」

「……は?」

聞けば、「オナラが出そうで怖くて塾に入れない」と宣っているとのこと。膝から崩れ落ちそうになる。確かに、最近「お腹が痛い」という訴えが増えていた。そして、「オナラを抑えるのに必死でテストに集中できなかった」とも。私はそのたびに、「音にだけ気をつけてスカしなさい」と軽く流していた。この状況に至るとは夢にも思わず、取り合わなかった過去の私の浅はかさが恨めしい。

それにしても、「オナラが怖い」。敵はインフルにありっ!とばかりに戦闘モードに入っていたが、まさかの伏兵。必要だったのはタミフルではなく、小林製薬のガスピタンだったのだ。完全に想定外の強敵の出現に、激しく狼狽し、途方に暮れるばかりだ。

しかし——聞かせてほしい。君の中学受験に向けた覚悟は、オナラ程度で吹き飛ぶようなものなのか? 次男の発熱も、発熱した次男から君を隔離するためのホテル泊も、念には念を入れての抗インフル薬予防投与も、全て母の判断であり、君自身には何一つ非がない。それは理解している。

だからこそ、言わせてもらう。この一連の手配に母が喜んで労力を割き、諭吉ならぬ栄一を気前よく差し出してきたのも、全ては君の努力に報いるためだった。ここでオナラと——いや、志望校と戦う覚悟を見せずして、いつ見せるのか。

長男はすでに塾の近くまで行っているようで、私にしてやれることは少ない。こうなったら、長男自身の「オナラ制御スキル」のみが頼りだ。長男と通話を続ける夫を凝視する。煮え繰り返りそうな私のハラワタの具合などお構いなしに、夫はのんびりと長男と話し込んでいる。

「太郎が頑張っているのはお父さんも知っているよ。お腹痛いの? そっかぁ、困ったね。どうしようか。」

——困ったね、じゃない。スキルを発動し、静かに処理せよ。トイレという安全地帯もあるのだから、ここは冷静に対処するべき場面だろう。

「今日は休む?」

——正気か。冬季講習だぞ。この最後の頂を乗り越えるためにどれだけ周到綿密に動いてきたと思っているんだ。

インフルの脅威をかいくぐり、ホテル泊に渋沢栄一を11人も捧げ、念のための予防投与にも7人を差し出した。涙目で繰り広げた防衛作戦が、まさかガス一発により瓦解しようとしているなんて。この展開を知ったら、渋沢栄一も黙っていないだろう。天国で算盤を叩きつけ、激怒するに違いない。ここで崩れるわけにはいかない。負けるものか。

「ちょっと変わって。」

黙っていられなくなり、電話を奪った。

「ねえ、何してるの。」

電話の向こうで長男が押し黙る。分かっている。私に直接電話をかけたら怒られると思い、夫に頼ったのだ。けれど、オナラ程度で休むなんて、そうは問屋が卸さない。

「お腹が痛いのはわかる。でも中身が出そうならともかく、オナラでしょ? 次郎の発熱を避けてホテル暮らしまでして、こっちは太郎が塾に行けるように全力で調整してるんだから。中座してトイレ行けばいいだけの話でしょ? とにかく、今日は塾に行きなさい!」

オナラオナラと連呼しながら涙目である。泣いているのは私だけではないはずだ。私の元を去った栄一も、きっと算盤を抱え、天国で肩を震わせているに違いない。もはや、泣いているのか、笑っているのか。それは私にもわからない。ただ一つだけ確かなのは、私の財布はむせび泣いているということだ。

太郎

今はだいぶ落ち着いたけど、相当山あり谷ありの2年間だったよね。

トモ子

何度も塾にも行けなくなったし、発達外来で薬ももらって、やっと調子が整ったよね。調子も成績も整ってきたのは、6年の秋だった。

 
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