1月12日
10:00
結果を確認
第二戦に向かった長男の迎えを待ちながら、栄東の合格発表を確認した。10時ちょうどに接続を試みるも、サーバーが重いこと重いこと。最初はPCのみで接続を試みていたがサーバーがダウンしているのか全く繋がらず、自分のiPhoneと、ついには会社のiPhoneも投入して、3台体制でアクセスを試みる。
こういう行為がさらなる混雑を招くことは百も承知だが、結果が気になってやめられるわけもない。しかし、3台による猛攻もむなしく、画面は一向に進まない。30分が経過し、緊張感が薄れるのを通り越して疲労感が漂い始めた頃、唐突に結果が表示された。
——さあ、どう伝えるかな。思案しながら長男の試験の終了を待つ。
13:30
不機嫌な長男
今日受けていたのは栄東の東大特待Ⅰ。試験会場となる校舎から出てきた長男は、明らかに不機嫌だった。思うようにできなかったのか。「ちょっと離れて歩いて」とつっけんどんな口調で言われ、「どうだった?」と聞く隙もない。
凸凹中受、2月1日開成受験へ向けラストスパートだ!
白目太郎の中受のこれまで
小4でS入塾。S偏55からスタート。同年、発達特性と高IQが判明。ADHD薬の服薬で落ち着きのなさはおさまり、クラスはαに上昇。
小5秋に大失速、サピックス退塾。転塾、再度の退塾を経て小6の夏前からサピックスに復帰。11月にS偏65に到達。志望校を開成中学に変更し、最後の一踏ん張り中。
一昨日受験したA日程の結果については「学校を出て受験生集団から離れた場所で確認したい」と事前に言われていたため、口頭で伝えることもできない。結果が気になって仕方がないだろうに、他の受験生に聞かれるのが嫌らしい。
駅まで続く受験生親子の長蛇の列を一緒に進みながら、タイミングがなかなか見つからない。10分ほど進み駅が見えてきたところで、構内まで受験生で溢れている様子が確認でき、このまま進んでも受験生から離れられる場所はないと気がついたのか、長男がたまりかねたように切りだした。
「合格はしてたの?」
「合格してたよ」。質問にだけ簡潔に答える。長男は「見せて」と言いながら横道へと歩き出した。催促するように差し出された手に、用意しておいた合格発表の画面を表示したiPhoneを渡す。長男は画面を一瞥し、吐きすてた。
「全然良くない。何これ。」
特待ならず、道端での大癇癪
長男が「全然良くない」と切りすてた結果は、「東大クラス合格」。「難関大クラス」と「東大クラス」の2コース編成のうちの上位クラスだ。順位は5000人中1000位程度。目指していた400位以内には遠く及ばず、1年特待も叶わなかった。
何度か画面をズームし直して全科目の平均点と自分の得点を確認していた長男は、良い方のクラスで合格が出たとはいえ、手応えとは程遠い点数だったことを理解したようだった。
「何だよこれ。なんなんだよこれ。」
堪えていた感情がついに崩れた。目の周りを赤くしながら足を止め、頭を掻きむしり、メガネを外して両手で握りしめ、力を込める。目をカッと見開き、震える手でメガネを変形させようとするも、直前で力を緩め、思いとどまった。その間にも溢れる涙をハンカチで何度もぬぐい、地団駄を踏みながら、顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくる。
「もう嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……」
表通りから1本だけ裏に入った場所だったため、受験生らしき親子連れが数組通り過ぎていく。チラチラと感じる視線にため息をつく。間違いなく「栄東のA日程で落ちた子」と思われる構図だ。
何か壊せるものを探しているのか、長男はポケットからリップクリームを取り出し、クリーム部分を全て出してへし折ろうとするも、手が汚れると気づいたのか再度思いとどまり、再びポケットにしまった。壊せるものが見当たらないと悟ったのか、今度は私が手に持っていたパンの袋を奪い取り、持ち手を勢いよく引きちぎりながら、また涙を拭う。そして、絞り出すように言った。
「特待取れなかった……」
やはり、特待が取れなかった自分への落胆が癇癪の引き金だったようだ。しかし感情を爆発させながらも、損失の大きい破壊行為には至らないのが、かろうじて残る理性か。こういう時には励まそうとしても逆効果なのは知っているので、あえて結果には触れずに、声をかける。「まあ、大丈夫だよ。どこかでご飯食べよう」。とりあえず、場所を変えたかった。
理科と国語ふるわず
駅のホームでチョコレートを補給し、何とか気持ちを持ち直させながら、SS特訓が行われるサピックスの校舎へ向かった。用意していたサンドイッチでの軽めランチを提案するも、「いらない」と一蹴され、結局、塾近くの寿司屋に入ることに。通されたカウンターの席で「もう一回、結果見せて」と言われ、再度本人に合格発表の画面を見せた。
長男が「集中が切れた」と言っていた理科が悪い。平均はかろうじて上回っているものの、過去問で取れていた点数には遠く及ばない。出題分野によって点数が乱高下する弱点が露呈した。
頼みの国語も振るわなかった。選択肢問題でほとんど間違えないのが強みだったのに、今回はポロポロ落としたらしい。最近は記述対策に力を入れていたため、選択肢の勘が鈍ったのかもしれない。胸を張って「良い」と言えるのは社会だけだ。
「過去問の相性が良すぎたのかなぁ。今回どうしてこんなに取れなかったんだろう。算数は見直しでは90点は取れるはずだったんだよ」。長男がぼやく。
それなんだよね。90点取れると思ったのならば、解き筋自体は見えていたはず。それなのに点数が追いつかないのは、どこかでミスをしているから。解くプロセスの中に潜むその差分を埋めることこそが、今の君の一番の伸び代だと思うんだけど。君はいつそれに気がつくのだろうか、それとも、中学受験では気がつかずに終わるのか。
「特待は絶対に取るよ。まだ受けられるよね? 今日の試験がダメだったら、18日も受ける」。寿司でお腹が膨れた長男は、ようやく落ち着きを取り戻した。
最後はメンタル
改めて、長男が最高の結果を出していた頃を振り返ると、本人曰く「全然勉強していなかった」という時期だった。ただし、「全然」といっても実際には、過去問を解き進めるペースを一時的に緩めた程度。その「緩めた時間」が、結果的に脳の余裕を生み、最良のコンディションを作り出していたのだろうか。
これまでも、直前まで詰め込み続けると模試の成績が下がるという傾向はあった。やはり、あれは脳のオーバーワークによる疲労が影響していたのかもしれない。前日まで詰め込んだ初戦では余白を作る余裕がなく、追い込みがかえって空回りしてしまったのかもしれない。
2月の本番へ向け、「休むことも作戦の一つ」という教訓が得られたか。適度にペースを落とし、脳をリセットする時間を意識的に取るようにする。それにしても、そのバランスが悩ましい。
算数に関しては、冬期講習の特訓の効果がじわじわと現れ、順位を上げつつある。根を詰めて課題をこなすことで成長を実感できるだけに、どこまでやり込み、どこで休むか、その見極めが今後の鍵になる。アスリートが本番に向けて1週間程度の調整期間を取るように、長男のような「脳筋族」にも、勉強での「追い込み」と「調整」のバランスが必要なのかもしれない。
また、「手の痛みが気になって集中が切れた」と言っていた理科が気になる。理科は試験の最後の時間で解いているはずで、手の痛みだけではなく脳への栄養が足りなくなって集中力が切れたことも要因の一つではないか。軽食を持たせたのに、テストの間の休憩時間は「参考書を見返すのに精一杯で」食べる余裕がなかったとのこと。こうした余裕のなさがパフォーマンスの悪化に繋がった気もする。
と、反省ばかり書き連ねているが、合格は合格だ。それも、良い方のクラスでの。「最高の結果より一つ悪い」程度で抑えられた今回の結果は、残り3週間を緊張感を持って頑張り抜くための、良い刺激となったかもしれない。そう思って、今は、気持ちを切り替えることにする。
今はだいぶ落ち着いたけど、相当山あり谷ありの2年間だったよね。
何度も塾にも行けなくなったし、発達外来で薬ももらって、やっと調子が整ったよね。調子も成績も整ってきたのは、6年の秋だった。