IQが145ありながらも項目間のばらつきが大きい長男。その脳みその特性ゆえなのか、アンバランスで偏った頭の使い方をすることがよくあります。今回はそんな長男の頭の使い方と謎行動が少し理解できた気がする本を紹介します。
今井むつみ「学力喪失ー認知科学による回復への道筋」
この本自体は高IQについて書いたものではないのですが、子供が学習するプロセスについて認知科学の観点から丁寧に解きほぐしているので、学びがたくさんありました。
例えば、実行機能と学力について。「実行機能」は、認知科学では「作業記憶能力」と並び、学習において非常に重要な役割を果たすものとされてきたそうです。
- 作業記憶能力: 一時的に記憶を貯蔵し、操作する能力
- 実行機能: 問題解決に必要な情報に注意を集中し、不必要な情報への注意を抑制する能力
学力を伸ばすと聞くと、「たくさん覚える」「情報をうまく操作する」といった能力を重視しがちです。しかし実は、「不要な情報を無視する」「本当に大事なことに集中する」といった能力が、学習の鍵になるそうです。
実行機能については「衝動をコントロールしながら自分のしたいこと/すべきことを完遂するための精神的成熟のようなもの」程度に理解していました。どちらかというと、学力より生活に紐づく能力として。例えば時間通りに動くとか、目標を立てて計画を遂行するとか。
日常的に目に映ったものに反応しやすく、注意が逸れやすい長男は、明らかに注意のコントロールができていません。見えていないというより、見えたものを意識しすぎていて、注意が拡散している、という印象です。
木片におもりをぶつける問題で発狂する長男
筆者は「学力喪失ー認知科学による回復への道筋」の中で、機能=不要な情報への注意を抑制する能力は、学力を伸ばす上でも最も重要な要素であると説明します。そういえば最近、注意の抑制力のなさとはこういうものか、と思い当たる事例がありました。
例えば最近の長男を発狂させたこんな問題。ぶら下げたおもりを木片にぶつけて、木片が遠くまで動くのはどれか?と問います。木片が動く距離を変えるのは、おもりがぶつかるときの速さとおもりの重さで、おもりがぶつかる時の速さを変えるのは、落とす高さです。
出題者は、ひもの長さ、ひもを持ち上げる角度なども羅列し、どの条件の組み合わせの時に木片が最も遠くまで動くか選択させます。条件はたくさん羅列されていますが、大事なのは「おもりを落とす高さ」「重さ」です。角度やひもの長さは関係ありません。不必要な情報を除外して、必要な情報から解けるかを見ているのです。
長男、これが全然ダメです。
「色々書いてあるけど、高さだよね」と、選択的に注意を向けることができず、それぞれの条件を複雑に考えすぎてしまう。そのような様子をちょうど見ていたタイミングだったので、この「作業記憶能力」と「実行機能」の分類、大変腑に落ちました。
目に入ったら最後、注意を引き剥がすことができないんでしょうね。「大事な条件はどれなんだったけ?」と検討せず、見えたものを手当たり次第に思考に巻き取っていってしまうということかと。
この弱み、次から次へと注意を切り替えなくてはいけない場面や、時間がない時に特に足を引っ張ります。テストの小問集合なんかがそうですね。
認知負荷を軽減するための工夫をしているか?
筆者がもう一つ注目するのは、問題を解いている子供が、認知的な負荷を軽減するため、工夫をしているかどうかです。認知的負荷というのは、暗算したり頭の中で図形を回転させて覚えておくといった作業をするときの脳への負荷のことです。
例えば筆者は小学生対象に知能テストのようなテストを受けさせ、子供たちがどのような工夫をしながら問題を解いたのかを見ます。
ある子どもは、図形を90度回転させる問題で、図形の中の二箇所に点を打って手掛かりにしていました。筆者はこうした工夫を高く評価し、一方で、こうした工夫する能力が低い子どもは、「少し問題が複雑になってパーツを組み合わせたり統合したりしなければならなくなると行き詰まる」と指摘します。
これも、長男の姿に重なります。
長男は特に数字の処理については高い能力を持っていますが、とても高い能力を持つがゆえに、負荷を軽減するための工夫をあまりしません。広い計算領域を頭の中に持っているため、紙を使って解くより、頭の中だけで完結させた方が自由で楽なのです。
ではどうすればいいのか?
筆者は、頭の回転を早めることよりも、必要な情報に選択的に注意を向けることと、頭に負荷がかかりそうであれば適切にその負荷を低減させる工夫ができることこそ大事だと言います。
受験勉強で言えば、問題文に散りばめられた数字にすぐに飛び付かず一旦落ち着いて「大事なのはなんだ?」と冷静になる力でしょうし、無闇に暗算や脳内での図形移動に頼らず、適切にメモを書いたり、補助線を引いたりする能力でしょう。
こうしたスキルは塾や学校で教わるわけですが、その前段階として、工夫をしようとする姿勢が育っているか、が大事なんだそうです。
そういえば、我が家では時間感覚がない長男のために手書きのバーティカルスケジュールを作成していましたが、「僕はそんなふうに綺麗に描けない」と言って、そこで思考停止してしまっていました。
でもこれも、真っ直ぐに線を引き、それを何分割すれば良いのかを考え、まずは2分割なり3分割なり大きく分けて、そこから細かく目盛りを振っていけばいいわけです。
重要なのは遊びの中で学ぶことだそうです。線分図の例で言えば、いきなり算数の線分図になるから抵抗があるんであって、公園で陣地を作るなり友達と紙で遊ぶなり、遊びの中で線を描いたりそれを分割する経験がまずは必要ということでしょうか。
選択的に注意する力を養うのはなんだろう。鬼ごっこですらきっと、注意力は養われますよね。全体を見ながら、同時に一点を見る力。結局、そういう経験こそが大事なんだろうなあ。