ADHD薬でノイズを消したら世界が変わった 凸凹中学受験の振り返り⑩

白目トモ子(筆者)
メディアの片隅で生き延びてきた物書き。小学生男児2人を育てる。目下の悩みは不登校で発達特性ありの長男の中学受験。
このページの内容

凸凹中学受験で起きたこと(続き)

その11 コンサータとストラテラの併用で見えた変化

太郎

凸凹中受、ついに終わった!

白目太郎の中受のこれまで

小4でS入塾。S偏55からスタート。同年、発達特性と高IQが判明。ADHD薬の服薬で落ち着きのなさはおさまり、クラスはαに上昇。

小5秋に大失速、サピックス退塾。転塾、再度の退塾を経て小6の夏前からサピックスに復帰。復帰時のS偏差値は54。11月にS偏68を突破し、志望校を開成中学に変更、合格した。

薬の効果についても書いておきたい。

ADHDの薬は非常によく効いた。今飲んでいるのはコンサータとストラテラ。特に効果を感じたのはコンサータで、効きすぎているのではないかと怖くなるほどだった。

飲み始めたのは小6の7月だった。その頃、本人は薬の効果をこういう表現で教えてくれた。

「これまでは後ろからトーマスに追いかけられながら道路を走って、向かいから対向車が来てる感じだったけど、今日は自分の前に自分の線路があった。集中できた!」

なんともまあ、カオスで混沌とした世界にいたのだろう。そんな脳内世界を生きていれば、頭の中の大騒ぎを常に中継したくもなるわけだ。この「頭の中で追いかけてくるトーマス」の存在が、これまでどれほど彼の学習を阻んでいたのか。薬を飲み始めて、ようやくその正体がはっきり見えてきた。

漢字の細部に目が向くように

長男はもともと書字に苦手意識があり、漢字の細かな部分を正しく書くことが長年の課題だった。「細かな部分を正しく書く」とは、たとえば、「橋」のつくりの上半分の書き方のこと。長男はこの夭の部分を禾と書いてしまうような間違いをよくしでかした。注意すると、その場では「ふんふんなるほど」と頷くのだが、実際には記憶に残らず、脳内のブラックホールに吸い込まれていくのが常だった。

コンサータの服用開始後のある日、また「橋」を間違えて書いていた。すかさず「禾」ではなく「夭」だとの指摘を入れると、長男は初めて言われたかのように「へぇ〜」と目を丸くした。当然、私としては何度も伝えてきたつもりだったので、その新鮮な反応に激しく脱力したのだが、まるでピントが合っていなかったカメラが急にクリアに見えるようになったかのような、唐突な覚醒だった。

写真はその頃の漢字ドリルの書き込みの様子だ。突然、漢字が「見える」ようになったらしく、自分がハマりやすい落とし穴を意識し始めたのだろう。「ここ、よく間違える」と気づいたらしく、初めて自分からチェックポイントを書き込んでいた。

書いた後のチェック機能が有効に

また、間違えないように意識する前に、衝動的に手が動いてしまうという特性もあった。漢字の書き取りでも計算問題でも、「ここは間違えやすいぞ」と気をつける前に書き始めてしまう。その結果、細かい部分を書き間違えたり、求められていない答えを書いたりすることが多かった。

ところが、コンサータの服用後、「注意モード」が起動した。漢字では、「書こうとする→字形を思い出す→書く→ミスがないかチェックする」という回路がスムーズにつながり、細部にまで意識が届くようになった。

そして、長男自身が気づいてしまったのだ。自分の答案が、想像以上にひどいことになっていたことに。

「なんだ、このクソみたいなミスのオンパレードは」

長男は目をぱちくりさせながら答案を見つめ、愕然としていた。そして、それまでのようにキレ散らかすことなく、赤を入れられた答案を一つずつ修正し始めた。それまでは書き間違いを指摘されても「どこをどう直せばいいのか」が分からず、不貞腐れるか逆ギレするのがお決まりだった。それが、自分のミスに気づき、何をどう修正すればいいのかがわかるようになった。

もちろん、薬は彼のミスの全てを解決してくれたわけではなかった。しかし、薬のおかげで少なくとも日中に関しては相当にマシになった。

目の前の課題に取り組めるように

長男はもともとADHDの傾向がそれほど強いわけではなかったが、ストレスがかかると、多弁や注意散漫といったADHD的な特徴が顕著に現れた。社会のように好きな科目の勉強中には特に問題はなかった。問題は算数など苦手な科目。勉強に取りかかろうとすると、途端に頭の中が別の考えでいっぱいになり、手元の課題に集中できなくなった。

さらに、気をそらすためなのか、関係のない話を延々と喋り続けたり、ふとしたきっかけで全く別のことを考え出したりすることが頻発した。その結果、課題を前にしてもなかなか手が動かず、勉強時間が「机に向かっているだけ」の状態になることも少なくなかった。

コンサータにより、この「脳内おしゃべり暴走モード」がなくなった。思考が整理され、目の前の課題にスッと取りかかれるようになった。

さらに、個別指導ではこれ、その後の自習ではこれ、と段取りを立てることができるようになり、学習の見通しが格段に向上。これにより、日々の「やらなきゃいけないのに手がつかない」という消化不良感が薄れていった。

以前は「勉強しなくてはいけないのに集中できない」とイライラすることが多かったが、服用後はすべきことの優先順位をつけやすくなった。集中さえすれば到達できるレベルが分かるようになったことで本来の能力が見え、それにより、ここからの伸び代もはっきり見えるようになった。

薬が切れた後の騒がしさ

薬の効果で整理がつくようになったことは間違いないが、問題は「薬が切れた後」だ。コンサータが切れる夕方以降になると、途端に「アメリカのスーパーの特売コーナーにいる何か」(上の写真)が頭の中で騒ぎ出すらしく、集中力がガクッと落ちる。本人曰く「目を閉じると動き出す」。この状態では勉強を続けるのが難しく、夜の学習は短時間に切り上げるようにした。

ただ、中学受験が終わってからは、夕方以降も比較的落ち着いて過ごせるようになった。

そのことから考えるに、キャラクターは一種の防衛機制だったのではないかと思う。ストレスがかかったときに脳が自動的に「騒がしい何か」を作り出し、それによって嫌な現実から意識を逸らしていたのではないか。進学先が決まり、プレッシャーがなくなった途端、その「特売コーナーの何か」はすっかり姿を消したようだった。

「能力を引き出す」有効な手段

結局のところ、薬は「できないことをできるようにする」ものではなく、「できるはずのことを、ちゃんとできるようにする」ための補助だった。脳内の雑音が整理されれば、長男はもともと持っていた力を存分に発揮できる。そのための一助として、薬が果たした役割は大きかった。

「魔法の薬」ではない。しかし、適切に使えば、「本来できること」を邪魔するノイズを取り除くことができる。結果として、本人のストレスが減り、学習の効率が上がるのであれば、それは十分に価値のある選択だったと思う。

現在の服薬パターン(朝にコンサータ18mgとストラテラ10mg、夜にストラテラ5mg)に落ち着くまでには、試行錯誤があった。もともとはストラテラのみでコントロールしていたのだが、意図せざる作用として、逆に頭の中がうるさくなることがあった。一度ストラテラを増やしたこともあったが、テンションが上がりすぎて空回りし、さらに多弁になった。結果的に、コンサータとの併用が彼には合っていた。

薬の力を借りることには賛否がある。だが、少なくとも長男にとっては、不要なストレスを軽減し、学習をスムーズにするための大きな助けになったことは間違いない。

以下は今後書きたいことのリスト。

  • 今日も授業に行けない!
  • 10歳の壁と癇癪と不登校
  • ケアレスミスとの戦い
  • 「眠い・疲れている」が分からない
  • 授業点が取れない
  • 教材以外で学ぶ
  • あと伸びを信じる
  • 成績の停滞は「慣れ待ち」
  • 投薬の効果
  • 5年秋で凸を見極め
  • 記述対策で伸びる
  • プロのアドバイスに従え
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